ハンドメイドの原価計算で手が止まるのは、足し算ではなく割り算のところです。ピアス金具は100個入りの袋で買う。レジン液は1本で何十個も作れる。接着剤は1本で何か月ももつ。「この作品1個に、いくら使ったのか」が分からないから、原価が出ません。
この記事では、その割り算を全部やります。
- 袋買いの材料・消耗品・失敗分・道具・梱包を1個あたりに落とす計算式
- レジンのピアスを例にした原価の内訳表(1セット274円の中身)
- 人件費を原価に混ぜない方が計算が安定する理由
- 入れ忘れやすい費用と、いったん無視してよい費用
値段そのものの決め方(相場と手取りからの逆算)は別の記事にまとめています。→ ハンドメイドの値段の決め方|販路の手数料と時給から逆算する。この記事はその前段、「材料費」の欄に入れる数字を作るところです。
結論:原価は「1個あたりの材料費」と「かけた時間」に分けて出す
原価計算の答えは1つの数字ではなく、「1個あたりの材料費 ◯円」と「1個あたり ◯分」の2つです。 この2つを別々に持っておくと、値段を変えたときも、作り方を変えたときも、計算し直しが楽になります。
よく見る「材料費+人件費+経費=原価」の式は、間違いではありませんが実務では扱いにくいです。人件費は「時給いくらと仮定するか」で好きなだけ動くので、原価が仮定の数字に振り回されます。材料は円で、手間は分で。混ぜないのがコツです。
材料費の側は、次の5つを1個あたりに割って足します。
| 項目 | 割り方 |
|---|---|
| ① 材料(袋買い) | 袋の値段 ÷ 入り数 × 1個に使う数 |
| ② 消耗品 | 1本の値段 ÷ 1本で作れる個数 |
| ③ 失敗して捨てる分 | ①+② × 失敗率ぶんを上乗せ |
| ④ 道具・型 | 代金 ÷ 回収するつもりの個数 |
| ⑤ 梱包資材 | 袋・台紙・カードなど1個ぶんの実額 |
順番に計算します。
① 袋買いの材料:単価 × 1個に使う数
袋の値段を入り数で割って単価を出し、1個の作品に使う数を掛けます。 ここは素直です。
レジンのピアス(両耳で1セット)を例にします。
| 材料 | 買った単位 | 単価 | 1セットに使う数 | 小計 |
|---|---|---|---|---|
| ピアス金具(ゴールド) | 100個 990円 | 9.9円 | 2個 | 19.8円 |
| ミール皿 | 20個 660円 | 33円 | 2個 | 66円 |
| 丸カン | 200個 330円 | 1.65円 | 2個 | 3.3円 |
| ドライフラワー小花 | 1袋 880円(約60輪) | 14.67円 | 4輪 | 58.7円 |
小計 147.8円。ここで注意が2つあります。
小数は落とさない。 丸カン1個1.65円を「2円」と丸めると、200個使う頃には70円ずれます。計算の途中は小数のまま持ち、最後の合計だけ円に丸めてください。
「約60輪」のような数え方でよい。 ドライフラワーやビーズミックスは正確な入り数が書いていないことが多いです。1袋を開けて実際に数えるか、10輪ぶんの重さを量って袋の総重量で割れば、十分な精度で出ます。一度出せば、次の仕入れからはその数字を使い回せます。
② 消耗品:1本で何個作れるか
接着剤・レジン液・ニス・ヤスリ・アルコール・マスキングテープは、「1本(1個)で作品が何個作れるか」で割ります。
これが一番あやふやになりやすいところです。正確に量るのは無理なので、次の順で決めます。
- 前回買ってから今回買うまでに、その材料で作品を何個作ったか数える(一番正確)
- 分からなければ、いまの1本で「あと何個作れそうか」を見た目で見積もる
- それも難しければ、最初は「作品50個で1本」と置いて、実際に使い切った時点で直す
| 消耗品 | 買った単位 | 1本で作れる数 | 1セットあたり |
|---|---|---|---|
| UVレジン液 | 100g 1,650円 | 約40セット | 41.2円 |
| 接着剤 | 1本 440円 | 約100セット | 4.4円 |
| 仕上げ用ヤスリ・アルコール | 月に約300円 | 月に約30セット | 10円 |
小計 55.6円。①と合わせて 203.4円 です。
「月にいくら」で買っているものは、その月に作った個数で割ればよいです。ヤスリのように複数の作品にまたがって使うものは、作品ごとに分けようとせず、月の消耗品代を月の制作数で割ってしまう方が実態に近くなります。
③ 失敗して捨てる分:材料費に上乗せする
10個作って1個失敗するなら、材料費は1.11倍で計算します。 失敗した1個の材料は、売れた9個で負担するしかないからです。
計算式は「材料費 ÷(1 − 失敗率)」です。
| 失敗率 | 掛ける数 |
|---|---|
| 5%(20個に1個) | 1.05 |
| 10%(10個に1個) | 1.11 |
| 20%(5個に1個) | 1.25 |
ピアスの例で失敗率10%なら、203.4円 ÷ 0.9 = 226.0円(22.6円の上乗せ)。
失敗率が分からなければ、最近作った20個のうち何個を捨てたか数えてください。レジンなら気泡や硬化ムラ、布物なら裁断ミスのように、どの素材にも捨てる理由はあります。ゼロと置くのが一番危ないです。
④ 道具・型:何個で回収するかを先に決める
硬化用のUVライト、シリコン型、ピンセット、作業マットは、「何個売って元を取るか」を自分で決めて、その数で割ります。
道具は一度買えば長く使うので、原価に入れないという考え方もあります。ただ、その作品専用の型やパーツ、その作品のために買ったライトは、売れなければただの出費です。
| 道具 | 代金 | 回収する個数 | 1セットあたり |
|---|---|---|---|
| UVライト | 2,980円 | 300セット | 9.9円 |
| この作品専用のシリコン型 | 1,200円 | 100セット | 12円 |
小計 21.9円。ここまでで 248.0円。
「回収する個数」は、売れる見込みではなく自分がそれだけ作る覚悟があるかで決めてください。100個で回収と決めた型で30個しか作らなかったら、残り70個ぶんの型代は回収できていません。数字が現実より甘くなりやすいところなので、迷ったら少なめの個数で割る方が安全です。
⑤ 梱包資材:1個ぶんの実額
OPP袋・台紙・厚紙・サンキューカード・緩衝材は、1個ぶんの実額で足します。 袋買いの材料と同じ割り方です。
| 資材 | 買った単位 | 1セットあたり |
|---|---|---|
| OPP袋 | 100枚 330円 | 3.3円 |
| 台紙 | 50枚 440円 | 8.8円 |
| サンキューカード | 100枚 550円 | 5.5円 |
| プチプチ | 1巻 880円(約100回ぶん) | 8.8円 |
小計 26.4円。
ただし梱包資材は「送料側」に入れる考え方もあります。発送方法によって要る資材が変わる(クリックポストなら薄い袋、宅急便コンパクトなら専用箱)ので、送料と一緒に見た方が計算が合いやすいからです。どちらに入れても構いませんが、両方に入れて二重に数えないようにだけ注意してください。この例では材料費側に入れます。
合計:ピアス1セットの原価は274円
ここまでを1枚にまとめます。

| 項目 | 金額 |
|---|---|
| ① 材料(袋買い) | 147.8円 |
| ② 消耗品 | 55.6円 |
| ③ 失敗分(10%) | 22.6円 |
| ④ 道具・型 | 21.9円 |
| ⑤ 梱包資材 | 26.4円 |
| 1セットあたりの材料費 | 274.4円 → 約274円 |
値段の決め方の記事では材料費250円で計算していましたが、この積み上げをすると274円になります。24円の差は、消耗品と失敗分と道具を数えたかどうかの差です。1セットで24円は小さく見えますが、月に50セット売るなら1,200円、年間なら1万円を超えます。「なんとなく250円」で計算していた人ほど、この積み上げをやる価値があります。
そしてもう一度。ここで出た274円は、あくまで材料側の数字です。 作るのにかかった30分は、この中に入っていません。時間は時間で持っておいて、値段から手数料と材料費を引いた手残りを、かけた時間で割って時給を見る。その手順は値段の決め方の記事にあります。
人件費を原価に混ぜない方がいい理由
多くの解説記事は「時給1,000円と仮定して、1時間に5個作れるなら人件費200円」と原価に足しています。この方法をすすめない理由を書いておきます。
仮定の時給で原価が動くからです。 時給1,000円なら200円、1,500円なら300円。原価が「自分が決めた仮定」で変わってしまうと、「原価率30%」のような目安を当てても意味がぼやけます。材料費は買った値段で確定しているのに、人件費だけが好きに動かせる数字です。
時間の方が改善しやすいからです。 材料費を下げるには仕入れ先を変えるしかありませんが、制作時間は段取りやまとめ作りで変わります。「1個30分が20分になった」を見たいなら、時間は時間のまま記録しておく方が変化が見えます。
値段を決めるときに時間が消えるからです。 人件費を原価に溶かしてしまうと、「利益率50%だけど時給300円」という状態に気づけません。材料費と時間を分けておけば、手残りを時間で割った瞬間に分かります。
なので、原価計算の出口は「材料費 ◯円/制作時間 ◯分」の2つに固定するのをすすめます。後述の自作ツールも、この2つを別々に入れる作りにしています。
入れ忘れやすい費用と、いったん無視してよい費用
入れ忘れやすいもの
| 費用 | どう扱うか |
|---|---|
| 材料を買ったときの送料 | 袋の値段に足してから入り数で割る(990円の金具に送料200円なら1,190円÷100個) |
| ラベル・値札・インク | 消耗品として「月にいくら÷月の制作数」 |
| 試作で使った材料 | 失敗分と同じ扱いで上乗せ |
| 写真撮影の背景紙・小物 | 道具と同じで「何個で回収するか」で割る |
いったん無視してよいもの
| 費用 | 理由 |
|---|---|
| 電気代・部屋代 | 1個あたりにすると数円以下で、計算の手間に見合わない。年間の経費として別に見る |
| 販路の手数料・振込手数料 | 原価ではなく「値段から引くもの」。値段を決める段階で入れる |
| 自分の勉強代・講座代 | 回収する個数が決められないので、原価には入れず年間経費として扱う |
消費税と確定申告の扱いはこの記事では触れません。免税か課税か、インボイス登録の有無で変わるので、税務署か税理士にご確認ください。
この積み上げをそのまま入力できるツールを作りました
ここまでの計算は表計算ソフトでもできますが、材料の袋を変えるたびに単価を直し、失敗率を変えるたびに全部を計算し直すのは手間です。
私が作った 値付けそろばん(BOOTH・¥2,980)には「材料を内訳で積み上げる」欄があり、材料名・単価・1個に使う数を入れると1個あたりの材料費が合計されます。1個あたり3.5円のような小数の単価もそのまま持ちます。初期費用(型・道具)は別欄で「何個で回収するか」を決めて割り戻し、失敗分と消耗品を入れたかは計算後の点検リストで聞かれます。

そこで出た材料費と制作時間を、同じ画面で販路ごとの手数料・送料と合わせて、手残りと実効時給まで出します。HTMLファイル1つで動き、入力した数字はパソコンの外に出ません。
まずはこの記事の表を自分の作品で埋めてみて、毎回の計算が面倒になったら道具に移す、という順番で十分です。
原価を出したら次にやること
- 出た「材料費 ◯円」を、値段の決め方の記事の手順で手数料・送料と合わせて手残りを出す
- 手残りを制作時間で割って時給を見る
- 材料の袋を使い切るたびに「1本で何個作れたか」を実測に直す(最初の見積もりは必ずずれます)
- 販路ごとの手数料が違う点は 手数料比較の記事 で確認する
原価計算は一度やれば終わりではなく、実測で直していくものです。最初の数字が多少ずれていても、使い切るたびに直せば半年でかなり正確になります。