書き上がった小説を読み返して「うん、大丈夫そう」と思ったのに、投稿してから誤字や同じ語尾の連続に気づいた。そんな経験はないでしょうか。
私は長編連載を書き続ける中で、これを嫌というほどやりました。その中でたどり着いた結論はシンプルです。推敲は1回で全部見ようとするから見落とす。見るものを絞って3周に分ければ、同じ時間でも精度がまったく変わります。
この記事では、その「3周方式」の具体的な手順と、そのまま使えるチェックリストをまとめます。
なお先に言葉の整理をひとつ。推敲は話の流れや文章そのものを練り直す作業で、誤字脱字を拾う校正とは別の作業です。よく「推敲したのに誤字が残った」と落ち込む人がいますが、それは推敲と校正を同時にやろうとした結果であって、腕の問題ではありません。この記事の方式は、その2つを最初から別の周に分けます。
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結論:推敲は「大きい順」に3周する
推敲で見るべきものは、実は3つのまったく違う作業が混ざっています。
| 周 | 見るもの | 作業の性質 |
|---|---|---|
| 1周目 | 構成(話の流れ・矛盾・削る場所) | 考える作業 |
| 2周目 | 文章(語尾・リズム・言葉の重複) | 感じる作業 |
| 3周目 | 表記(誤字・表記ゆれ・記号のルール) | 探す作業 |
「考える」「感じる」「探す」は頭の使い方が全部違います。1回の読み返しで同時にやろうとすると、脳はいちばん楽な「なんとなく読む」に逃げてしまい、結果としてどれも中途半端になります。
順番も重要です。必ず大きい方から直します。先に誤字を全部直したのに、あとから「このシーンごと削ろう」となったら、その修正時間はまるごと無駄になるからです。
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1周目:構成の推敲 ── 直すより「削る」
1周目で見るのは話の骨格だけです。文章の細かい部分は目に入っても我慢して、メモだけ残して先へ進みます。
チェックする3点
- 矛盾はないか:時系列・キャラの知識(その時点で知らないはずのことを話していないか)・小道具(持っていないはずの物を使っていないか)
- 冒頭で読者を掴めているか:最初の数行に「続きが気になる要素」があるか。説明から始まっていないか
- 削れる場面はないか:その場面を丸ごと抜いても話が通じるなら、削る候補です
削る勇気がいちばん効く
構成の推敲で効果が大きいのは、書き足すことより削ることです。書いた本人には全部が必要に見えますが、読者にとっては「話が進まない場面」は離脱ポイントになります。
私の場合、1話書くごとに「この話は要するに何の話か」を一文で言えるか確認していました。一文で言えない話は、たいてい2つの話が混ざっているか、何も起きていないかのどちらかです。前者なら分ける、後者なら削る。この判断だけで話の密度は目に見えて変わります。
1周目を始める前に:寝かせられるなら寝かせる
書いた直後の原稿は、頭の中の「書いたつもりの内容」で補完されてしまい、客観的に読めません。一晩でも置くと他人の文章のように読めるようになります。締切があって寝かせられない場合は、せめて場所を変える・表示を変える(縦書きにする・スマホで読む)だけでも効果があります。
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2周目:文章の推敲 ── 音読とリズム
構成が固まったら、次は文章そのものです。ここでいちばん効くのは昔ながらの方法、音読です。
音読で見つかるもの
声に出して読むと、目で読んでいるときには素通りしていた問題が引っかかります。
- 息が続かない文 → 一文が長すぎる
- 読んでいて口が気持ち悪い箇所 → 同じ語尾の連続(「〜た。〜た。〜た。」)
- つっかえる箇所 → 語順がねじれている・読点の位置が悪い
文末の単調は「三連続」からアウト
小説の文章でいちばん多いクセが、文末の単調です。「〜た。」で終わる文が3つ以上続くと、読者は理由が分からないまま「なんか単調だな」と感じ始めます。
対処はパターンを散らすことです。
| Before | After |
|---|---|
| 扉を開けた。部屋は暗かった。誰もいなかった。机の上に手紙があった。 | 扉を開けると、部屋は暗い。誰もいない。机の上には──手紙が一通。 |
全部を言い換える必要はありません。三連続を見つけたら真ん中の1文だけ形を変える。これだけでリズムは戻ります。
「使いすぎ語」は人によって決まっている
書き手には必ず口癖ならぬ「書き癖」があります。私の場合は「ふと」「思わず」「小さく」でした。1話の中に「ふと」が5回出てきたこともあります。
厄介なのは、自分の書き癖は自分では気づけないことです。自然に出てくる言葉だからこそ癖になっているわけで、読み返しても違和感なく素通りします。ここは後述するツールのような機械的な数え上げがいちばん確実な領域です。
台詞と地の文のバランス
会話だけでページが流れていく「台詞の応酬」や、逆に地の文が延々続く「壁」ができていないかも2周目で見ます。目安として台詞率が7割を超える話は展開が軽く見えやすく、2割を切る話は重く見えやすい。ジャンルにもよるので絶対値ではなく、自分の他の話と比べて極端にずれていないかで判断するのがおすすめです。厳密に数えなくても、画面をざっとスクロールして「かぎ括弧の行ばかり」「地の文の塊ばかり」が続いていないか眺めるだけでも十分です(数字で見たい場合は後述のツールが台詞率を数えてくれます)。
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3周目:表記の点検 ── ここは機械の仕事
最後の1周は「探す作業」です。感性は使いません。チェックリストで淡々と潰します。
表記の定番チェックリスト
- 表記ゆれ:「わかる/分かる」「言う/いう」「子供/子ども」が混在していないか
- ら抜き言葉:「見れる」「食べれる」(意図的な台詞なら残してOK。地の文は統一)
- 記号の作法:三点リーダーは「……」と2つ重ね/ダッシュは「──」と2つ重ね/!?の後は全角スペース(直後が閉じ括弧なら不要)
- 閉じ括弧前の句点:「〜です。」ではなく「〜です」(出版準拠なら句点なし)
- 数字の表記:縦書き想定なら漢数字に統一されているか
このリストの特徴は、すべて機械的に見つけられることです。つまり人間の集中力を使うのがもったいない領域でもあります。誤字脱字を目視で全部拾おうとして疲れ果て、肝心の1周目・2周目が雑になるのは本末転倒です。
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時間がないときの優先順位
3周する時間がない日もあります。そのときは上から順に切り捨てます。
- 最低限:3周目(表記)だけはやる ── 誤字は内容と無関係に信頼を削るため
- 次に:2周目の音読を冒頭と山場だけ ── 読者の滞在を左右する場所に絞る
- 理想:1周目から全部
「全部やれないから今日は推敲なし」がいちばんもったいない選択です。
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自分の目をすり抜けるクセは、道具で拾う
ここまで読んで気づいた方もいると思いますが、推敲の弱点は「自分では見えないもの」が一定量あることです。書き癖・文末の単調・表記ゆれは、書いた本人の目を高確率ですり抜けます。検索で出てくる推敲のコツが「他人の目で見ろ」「寝かせろ」に集中するのはこのためです。
ただ、連載を続けていると毎回他人に読んでもらうわけにもいきません。そこで私は、この「機械的に見つけられる領域」を自動で点検するツールを自作しました。文章ドックという無料版のあるブラウザツールです。
原稿を貼ると、この記事で挙げた項目のうち機械化できるもの──文末の連続・使いすぎ語ランキング・表記ゆれ・ら抜き候補・一文の長さ・台詞率・記号の作法など13種類──をまとめて一覧にします。直すのは自分で判断する「指摘型」なので、文体が勝手に変わることはありません。完全ローカル動作で原稿が外部に送信されない設計なので、未発表の原稿でも安心して使えます。
- 紹介記事:小説の推敲ツールを自作しました──文章ドック
- 配布ページ:文章ドック(BOOTH・無料版あり)
3周方式でいえば、3周目と2周目の半分をツールに任せて、人間は1周目と音読に集中する。これが私が長期連載を続ける中で最終的に落ち着いた分担です。
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まとめ:今日から使う推敲チェックリスト
最後に、この記事の内容を1枚のチェックリストにまとめます。
1周目(構成)
- 時系列・知識・小道具の矛盾がない
- 冒頭数行に「続きが気になる要素」がある
- 丸ごと削れる場面を探した
- できれば一晩寝かせた
2周目(文章)
- 冒頭と山場を音読した
- 文末の三連続を潰した
- 自分の「使いすぎ語」を数えた
- 台詞率が極端でないか見た
3周目(表記)
- 表記ゆれ・ら抜き・記号作法をチェックリストで潰した
- (機械化できる項目はツールに任せた)
推敲は才能ではなく手順です。3周に分ける。大きい方から直す。機械にできることは機械に任せる。この3つだけで、読み返しの質は今日から変えられます。